☆1 例えば、このような場合~「は」?「が」?
親戚の結婚式で、Kさんがお祝いのスピーチをしました。その時、私は柱のかげでKさんの顔が見えない所にいたので、声だけ聞いていたら、声がすばらしく良いことに初めて気がつきました。(いつもは顔を見ながら話しているので、そんなに声がいいことに気がつかなかったのです。)
あとで本人に「声がいいですね!」と言ったら、「声はいいでしょう~?」と笑っていました。
「声はいい」と言うと「声はいいけど他はダメ」という意味になることを日本人は何となくわかって使っているので、本人が謙遜して言う時はいいのですが、褒める側が「声はいいですね」なんて絶対言いません。
それに対して、「声がいい」と言えば他のことはさておき、とにかく「声がいい!」と褒める意味になります。
この場合、私は「声がいいですね~!」と褒め、本人は「声はいいでしょう~?(他はダメですが~)と謙遜して茶化します。
「は」と「が」の違いは何でしょうか? 外国人に聞かれたら何と説明したらいいでしょうか?
あえて、簡単に「は」と「が」の基本概念を比較してみれば、「は」は、頭の中に2つ以上のものがあって比べる場合、「が」は、頭の中に1つだけある場合、と言うことができます。
☆2 新しい考え方
「は」と「が」の違いは「永遠の謎?」のようにわけがわからないと絶望している外国人の日本語学習者 がたくさんいるのに、日本人は誰もきちんと説明できませんでした。日本人にとってはあまりにも自然に使っていることなので、なぜわからないのかわからない。説明もできない。どんどん増えてくる外国人に聞かれたら何と答えたらいいでしょう? これからは日本人も知っておいた方がよいことです。
今まで長い間、多くの研究者が英語などの外国語文法の発想で考えてきたので、どこまで行っても迷路のようでスッキリしない説明ばかりでした。
しかし、ついに「日本語そのもの」から考えられた新しい文法ができました。新宿日本語学校校長、江副隆秀(えぞえ たかひで)先生によって「2列の助詞」という考え方ができ、今まで何だかぼんやりしてよくわからないと思われていた「助詞」というものがクリアになってきました。
江副文法の「2列の助詞」について詳しくは、『新版 見える日本語、見せる日本語』(江副隆秀著 創拓社出版 2014年)を読んでいただくとして、ここでは、その中の「は」と「が」について考えてみます。
☆3「は」と「が」は「主語」だけにつくわけではない
英語などの文を日本語に翻訳する時、外国人日本語学習者は、「主語」のあと「は」と「が」のどちらを使ったらよいか迷ってしまうので、どうしても「は」と「が」のちがいを見つけようとしていました。
しかし、まず「は」と「が」は特に「主語」につく助詞ではない、ということに注目することが重要です。例えば、
・ “はないちもんめ”の歌 「あの子が欲しい~」
・「広島のお好み焼きが好き」
・「料理が上手な人がいい」
・「それがいやなのよ」
・「クレジットカードは使えますか?」
・「パソコンは得意だけど、ゲームは好きじゃない」
・「山の向うでは大雪が降っているそうだ」
・「新幹線は新宿駅からは出ていません。東京駅から出ています。」
これらの例文のように「主語」ではない言葉にもつくのです。
実際、「主語」という考え方は、英語などインド・ヨーロッパ諸言語の文法を説明する言葉であって、日本語では印欧諸語のような「主語」を考えると分からなくなってしまいます。「ぞうは鼻が長い」などの例文がよく取り上げられます。そのため「日本語は論理的ではない」などと言われたこともありました。しかし、日本語には日本語の文法体系があるのです。
☆4 「は」と「も」がセット - 頭の中に2つ以上のものがある場合
ここで、日本語自身の文法を考えた「江副文法」の「2列の助詞」について簡単に紹介しましょう。
日本語の助詞を見てみると、2つに分類できるということがわかります。
1つ目は「日光へ行く」とか「京都にある」など「語の前後の関係を表す助詞」で、「へ」「に」「で」「を」「と」などです。
2つ目は「今日も暖かい」「納豆はきらいだけど生卵は好き」など「2つ以上のものを頭の中に描きその中から選ぶ助詞」で、「は」「も」「でも」「さえ」などです。
「日光へは行きません」のように両方一緒に使うことができるということに注目し、1つ目を1列目、2つ目を2列目とすると、以下のようになります。
. 1列目 2列目
. 関係助詞 選択助詞
・ ( ✖ )(助詞不要) は
. へ も
. に でも
. で さえ
. を
. と
例えば
・「日光へは行きません」
「河口湖(へ)は行きます」
「 箱根(へ)も行きます」
・「鉄道博物館は東京にはありません」
「大宮に(は)あります」
「京都にもあります」
☆5 「は」と「も」のちがい
2列目の「は」と「も」は両方とも「2つ以上のものから選ぶ選択助詞」ですが、その違いは、例えば、何人かが並んでいる時、
・「納豆、好きですか」
・「はい、好きです」
・(隣の人)「私も好きです」 (前の人と同じ)
・(その隣の人)「私はきらいです」 (前の人と違ってきらい)
・(またその隣の人)「私もきらいです」 (前の人と同じくきらい)
・( 〃 )「私は好きですよ」 (前の人と違って好き)
のように、2人(2つ)以上の場合で、前の人と同じ場合は「私も~」になり、前の人と違う場合は「私は~」になります。
「も」は2つ以上のものについて話していて「〇と同じ場合」、
・「これも、あれも好き」
・「今日もコロッケ、あすもコロッケ~」
「は」は2つ以上のものについて話していて「〇とは違う場合」、
・「これは好きだけど、あれはきらい」
・「今日はダメだけど、明日は大丈夫」
「は」と「も」は、頭の中に2つ以上のこと(もの、人)を考えていて、
「同じ」場合は「も」、
「違う」場合は「は」を使う、ということです。
☆6 「は」は2つ以上のことが頭の中にあり「違う」場合なので、「対比」や「取り立て」の時に使う
・ 歌は大好きですが、カラオケへはあまり行きません。
・「今日は暖かいですね。」(昨日は寒かったという時)(もし昨日も暖かかったのなら「今日も暖かいですね」 )
・(女性に対して)「今日はきれいですね」と言うと、昨日はきれいではなかったことになるので、言わない方がいい表現として教えます。
☆7 「が」は頭の中に「そのことだけ」がある場合
他のものと比べたりするのではなく、そこにだけスポットライトが当たっている感じです。 例えば、
・目の前のこと 「あ、鳥が飛んでいる!」 「あ、虹がきれい~!」
・強調したい時 「これ、私が作ったんですよ」 「これが、この間話していた本です」
・疑問詞のあと 「誰が壊したんですか」 「どこがいい?」 「何が好き?」
・名詞を限定(修飾)する節の中 「私が昨日聞いた話では~ 」
「私が昨日聞いた」が「話」を限定しているので、頭の中にはそのことだけ。
☆8 ☆1の例に戻ってみると
「声がいい」と言うと「声のこと」だけが頭の中にあるので褒めることができますが、「声はいい」と言うと他のことも頭にあり「声はいいけど顔は悪い」などという意味になってしまいます。褒めるつもりなら必ず「声がいいですね~!」と言うように教えましょう。もしも、顔も頭も良い人なら「声もいいですね~!」と言えばいいんですね~!
ひとことで言うと
「は」は 頭の中に2つ以上のものがあって、その2つが違う場合
「が」は 頭の中に1つだけある場合、ということができます。