☆1 新しい考え方
「は」と「が」について、今まで長い間、多くの研究者が様々な考え方で説明しようとしてきましたが、英語などの外国語文法の発想で考えられていたので、スッキリしない説明になっていました。
しかし、ついに「日本語そのもの」から考えられた新しい文法ができました。新宿日本語学校校長、江副隆秀先生によって「2列の助詞」という考え方ができ、今まで何だかぼんやりしてよくわからないと思われていた「助詞」というものがクリアになってきました。
江副文法の「2列の助詞」について詳しくは、『新版 見える日本語、見せる日本語』(江副隆秀著 創拓社出版 2014年)を読んでいただくとして、ここでは、その中の「は」と「が」について考えてみます。
☆2「は」と「が」は「主語」だけにつくわけではない
英語などの文を日本語に翻訳する時、外国人日本語学習者は、「主語」のあとに「は」と「が」のどちらを使ったらよいか迷ってしまうので、どうしても「は」と「が」のちがいを見つけようとしていました。
しかし、まず「は」と「が」は特に「主語」につく助詞ではない、ということに注目することが重要です。例えば、
・ “はないちもんめ”の歌 「あの子が欲しい~」
・「広島のお好み焼きが好き」
・「料理が上手な人がいい」
・「それがいやなのよ」
・「クレジットカードは使えますか?」
・「パソコンは得意だけど、ゲームは好きじゃない」
・「山の向うでは大雪が降っているそうだ」
・「新幹線は新宿駅からは出ていません。東京駅から出ています。」
これらの例文のように「主語」ではない言葉にもつくのです。
実際、「主語」という考え方は、英語などインド・ヨーロッパ諸言語の文法を説明する言葉であって、日本語では印欧諸語のような「主語」を考えると分からなくなってしまいます。「ぞうは鼻が長い」などの例文がよく取り上げられます。そのため「日本語は論理的ではない」などと言われたこともありました。しかし、日本語には日本語の文法体系があるのです。
☆3 「は」と「も」がセット - 頭の中に2つ以上のものがある場合
日本語自身の文法を考えた「江副文法」の「2列の助詞」を簡単に紹介すると、日本語の文は《 情報 》と《 述語 》の間に2列の助詞があり、「へ」「に」「で」「を」「と」など語の「前後の関係を表す関係助詞」を縦の1列目とし、「は」「も」「でも」「さえ」など「2つ以上のものを頭の中に描きその中から選ぶ選択助詞」を2列目と考えます。
. 1列目 2列目
. 前後の関係を表す 2つ以上のものから選ぶ
. 関係助詞 選択助詞
・ ( ✖ )(助詞不要) は
. へ も
. に でも
. で さえ
. を
. と
例えば
・「日光へは行きません」
「河口湖(へ)は行きます」
「 箱根(へ)も行きます」
・「鉄道博物館は東京にはありません」
「大宮に(は)あります」
「京都にもあります」
☆4 「は」と「も」のちがい
2列目の「は」と「も」は「2つ以上のものから選ぶ」という同類の助詞ですが、そのちがいは、例えば、何人かが並んでいる時、
・「納豆、好きですか」
・「はい、好きです」
・(隣の人)「私も好きです」 (前の人と同じ)
・(その隣の人)「私はきらいです」 (前の人とちがってきらい)
・(またその隣の人)「私もきらいです」 (前の人と同じくきらい)
・( 〃 )「私は好きですよ」 (前の人とちがって好き)
のように、2人(2つ)以上の場合で、前の人と同じ場合は「私も~」になり、前の人と違う場合は「私は(前の人とちがう)」になります。
「も」は2つ以上のものについて話していて「〇と同じ場合」、
・「これも、あれも好き」
・「今日もコロッケ、あすもコロッケ~」
「は」は2つ以上のものについて話していて「〇とは違う場合」、
・「これは好きだけど、あれはきらい」
・「今日はダメだけど、明日は大丈夫」
「は」と「も」は、頭の中に2つ以上のこと(もの、人)を考えていて、
「同じ」場合は「も」、
「違う」場合は「は」を使う、ということです。
☆5 「は」は2つ以上のことが頭の中にあり「違う」場合なので、「対比」や「取り立て」の時に使う
・ 歌は大好きですが、カラオケへはあまり行きません。
・「今日は暖かいですね。」(昨日は寒かったという時)(もし昨日も暖かかったのなら「今日も暖かいですね」 )
・(女性に対して)「今日はきれいですね」と言うと、昨日はきれいではなかったことになるので、言わない方がいい表現として教えます。
☆6 「が」は頭の中に「そのことだけ」(ひとかたまりの1つだけ)がある場合
他のものと比べたりするのではなく、そこにだけスポットライトが当たっている感じです。 例えば、
・目の前のこと 「あ、鳥が飛んでいる!」 「あ、虹がきれい~!」
・強調したい時 「これ、私が作ったんですよ」 「これが、この間話していた本です」
・疑問詞のあと 「誰が壊したんですか」 「どこがいい?」 「何が好き?」
・名詞を限定(修飾)する節の中 「私が昨日聞いた話では~ 」
「私が昨日聞いた」が「話」を限定しているので、頭の中にはそのことだけ。
☆7 「2列の助詞」
いままでの文法では「は」と「が」のちがいばかり考えていたので、どこまで行っても迷路のようでしたが、「2列の助詞」で考えると、助詞の1つ1つの根本的イメージがスッキリつかめるようになりました。自分が使っている「は」「も」「が」を1つ1つ確認してみましょう。
ひとことで言うと
「は」と「が」をあえて比較してみれば、「は」は頭の中に2つ以上のものがあって比べる場合、「が」は頭の中に1つだけある場合、ということができます。