「シクラメンのかほり」「ためらひがちに」「にほひおこせよ梅の花」「つはものどもの夢のあと」「かほるちゃん」「かけひさん(筧さん)」というような表記を見た事がありますか?
現在、名前の「かほる」を「kahoru」、「筧さん」を「kakehiさん」とアナウンサーが読むのを聞いたことがありますが、これは音は「kaoru」「kakei」さんが正しいのです。
☆1 文字と発音を同じにしたい
今では知らない人が多くなってきましたが、1946年まで使われていた「旧かなづかい」では、語頭以外の「はひふへほ」は、「わいうえお」と発音していました。書くときは「かほり」「にほひ」と書いて、読むときは「かおり」「におい」と読むように決められていたのです。
「旧かなづかい」では「てふてふ」と書いて「ちょうちょう」、「けふ」は「きょう」と読んでいた、と聞いたことはありませんか。
平安時代に「ひらがな」ができてから、時の経過とともに音が変わってきたり、文字と音の間にずれができてきましたが、それを何とか工夫し読み方のルールを決めたりして1000年以上使ってきました。
そして、第二次世界大戦後1946年、読みにくい難しいルールはやめて、できるだけ文字と音を一致させようということになり、「新かなづかい」として、「にほひ」は音の通りに「におい」、「つはもの」は「つわもの」と書くことに決めました。(*1)
しかし、助詞の「は」を「わ」に変えて「わたしわ・・」にするのは当時の人にとってやはり抵抗感があり、助詞の「は(wa)」と「へ(e)」だけ、例外としてそれまで通りに残すことになったのです。
そして現在も小学校で、助詞の「は」と「へ」だけは「wa」「e」と読むんですよ、と子供たちに教えています。
「こんにちは」は「は」のままにしたのです。(*2)
☆2 もうひとつ 「を=お」
「を」はワ行で、発音は「ウォ(wo)」だったのですが、しだいに「w」の音が消え「お」と同じ音になっていたので、「新かなづかい」になった時、「を」は「お」に変えました。しかし、助詞の時だけはわかりやすいようにそれまで通り「を( o )」を使うことにしたのです。
鹿児島で「を」を「wo」と発音しているのを聞いたことがありますが、このように古い音が残っている地方もあります。
☆3 「じ=ぢ」 「ず=づ」
音がしだいに変わって同じ音になった例としては、「ざ行」の「じ」と「だ行」の「ぢ」、「ざ行」の「ず」と「だ行」の「づ」があります。江戸時代の中頃には同じ音になってしまったそうです。どちらを書いていいか迷ってしまうので、仕方なく原則として「ざ行」の「じ」と「ず」を使い、「だ行」の「ぢ」「づ」は使わないことにしました。
「おじいさん」は「じ」にしてしまいましたが、もとは「おぢいさん」だったのです。「じ」にすると元の「ちち」との関連性が消えてしまいました。
「きずな(絆)」も「きづな」と書かないと、元の意味の「つな」とのつながりが切れてしまいます。
「書きづらい」も最近は「書きずらい」という表記を見ることがありますが、「つらい」の意味が消えてしまうので「書きずらい」と書くのは「つらい」です。
元の意味がわからないことばが増えてしまいます。
それで、「おぼろづきよ」「はなぢ」「かなづかい」のように、元の意味がはっきりしていて、「おぼろずきよ」「はなじ」「かなずかい」と書きたくない場合は、例外として「ぢ」「づ」を使ってもよいということにしました。
つまり、原則としては「ざ行」の「じ」「ず」を使い、どうしても「だ行」の「ぢ」「づ」を使いたいときは臨機応変に、ということです。
音は年月とともに変化するものなので、その時その時に合わせて何とか良い方法を考えていかなければなりません。
*ちなみに
ひらがなの50音図「あいうえお」は、今では誰でも当たり前の基本発音図だと思っていますが、小学校で教えられるようになったのは第二次世界大戦後の1947年からなのです。それまでは「いろはにほへと・・」の「いろは歌」でした。
ひとことで言うと
「旧かなづかい」では、語頭以外の「は」は「wa」と発音されていました。「新かなづかい」になった時、助詞以外の「は(wa)」は音の通りの「わ」と書くことにしましたが、助詞の「は」の時だけ助詞だということが分かりやすいように、「は(wa)」の表記のままに残されたからです。
*1 名前の場合は、個人の好みでいいので、昔風の雰囲気を残したい人は「かほる」「かけひ」と書く人もいます。音は「kaoru」「kakei」です。
*2 最近はメールのやりとりで「こんにちわ」と書く人が出てきました。このような独立した言葉になっているものは、「今日は」の「は」が助詞であることが忘れられがちなので、しだいに「こんにちわ」になっていくのかもしれません。