23. 助詞「は」と「が」の違いを説明できる?  ≪ 江副文法≫

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☆1 例えば、このような場合~「は」?「が」?

同僚のAさんが会議であいさつをしました。私は柱のかげで彼の顔が見えない所にいたので、声だけ聞いていたら、声がすばらしく良いことに初めて気がつきました。(いつもは顔を見ながら話しているので、そんなに声がいいことに気がつかなかったのです。)

あとで本人に「声いいですね!」と言ったら、「声いいでしょう~?」と笑っていました。

「声いい」と言うと「声いいけどルックスダメ」などという意味になるのですから、褒める側が「声いいですね」なんて言ってはいけません。

「声いい」と言えば他のことはさておき、とにかく「声がいい!」と褒める意味になります。

この場合、私は「声いいですね~!」と褒め、本人は「声いいでしょう~?(他はダメですが~)と謙遜して茶化します。

「は」と「が」の違いは何でしょうか? 外国人に聞かれたら何と説明したらいいでしょうか?

あえて、簡単に「は」と「が」を比較してみれば、「は」は、頭の中に2つ以上のものがあって比べる場合、「が」は、頭の中に1つだけある場合、ということです。

☆2 新しい考え方

「は」と「が」の違いは「永遠の謎?」のようにわけがわからないと絶望している外国人がたくさんいるのに、日本人は誰もきちんと説明できませんでした。日本人にとってはあまりにも自然に使っていることなので、なぜわからないのかわからない。説明もできない。どんどん増えてくる外国人に聞かれたら何と答えたらいいでしょう? これからは日本人も知っておいた方がよいことです。

今まで長い間、多くの研究者が英語などの外国語文法の発想で考えてきたので、どこまで行っても迷路のようでスッキリしない説明ばかりでした。

 しかし、ついに「日本語そのもの」から考えられた新しい文法ができました。新宿日本語学校校長、江副隆秀(えぞえたかひで)先生によって「2列の助詞」という考え方ができ、今まで何だかぼんやりしてよくわからないと思われていた「助詞」というものがクリアになってきました。

 江副文法の「2列の助詞」について詳しくは、『新版 見える日本語、見せる日本語』(江副隆秀著 創拓社出版 2014年)を読んでいただくとして、ここでは、その中の「は」と「が」について考えてみます。

 

☆3「は」と「が」は「主語」だけにつくわけではない

英語などの文を日本語に翻訳する時、外国人日本語学習者は、「主語」のあと「は」と「が」のどちらを使ったらよいか迷ってしまうので、どうしても「は」と「が」のちがいを見つけようとしていました。

 しかし、まず「は」と「が」は特に「主語」につく助詞ではない、ということに注目することが重要です。例えば、

・ “はないちもんめ”の歌 「あの子欲しい~」

・「広島のお好み焼き好き」

・「料理上手な人いい」

・「それいやなのよ」

・「クレジットカード使えますか?」

・「パソコン得意だけど、ゲーム好きじゃない」

・「山の向うで大雪が降っているそうだ」

・「新幹線は新宿駅から出ていません。東京駅から出ています。」

 これらの例文のように「主語」ではない言葉にもつくのです。

 実際、「主語」という考え方は、英語などインド・ヨーロッパ諸言語の文法を説明する言葉であって、日本語では印欧諸語のような「主語」を考えると分からなくなってしまいます。「ぞう長い」などの例文がよく取り上げられます。そのため「日本語は論理的ではない」などと言われたこともありました。しかし、日本語には日本語の文法体系があるのです。

 

☆4 「は」と「も」がセット - 頭の中に2つ以上のものがある場合

 ここで、日本語自身の文法を考えた「江副文法」の「2列の助詞」を簡単に紹介すると、日本語の文は《 情報 》と《 述語 》の間に2列の助詞があり、「へ」「に」「で」「を」「と」など「語の前後の関係を表す関係助詞」を縦の1列目とし、「は」「も」「でも」「さえ」など「2つ以上のものを頭の中に描きその中から選ぶ選択助詞」を2列目と考えます。

.     1列目       2列目

.      関係助詞      選択助詞

・ ( ✖ )(助詞不要)  は

.      へ            も

.       に          でも

.      で          さえ

.       を

.       と

例えば

・「日光行きません」

「河口湖(へ)行きます」

「 箱根(へ)も行きます」

 

・「鉄道博物館は東京ありません」

「大宮に()あります」

「京都にもあります」

 

☆5 「は」と「も」のちがい

2列目の「は」と「も」は両方とも「2つ以上のものから選ぶ選択助詞」ですが、その違いは、例えば、何人かが並んでいる時、

・「納豆、好きですか」

・「はい、好きです」

・(隣の人)「私好きです」 (前の人と同じ

・(その隣の人)「私きらいです」 (前の人と違ってきらい)

・(またその隣の人)「私きらいです」 (前の人と同じくきらい)

・(  〃  )「私好きですよ」 (前の人と違って好き)

のように、2人(2つ)以上の場合で、前の人と同じ場合は「私~」になり、前の人と違う場合は「私~」になります。

 

「も」は2つ以上のものについて話していて「〇と同じ場合」、

・「これ、あれ好き」

・「今日コロッケ、あすコロッケ~」

 

「は」は2つ以上のものについて話していて「〇とは違う場合」、

・「これ好きだけど、あれきらい」

・「今日ダメだけど、明日大丈夫」

 

「は」と「も」は、頭の中に2つ以上のこと(もの、人)を考えていて、

「同じ」場合は「も」、

「違う」場合は「」を使う、ということです。

 

☆6 「は」は2つ以上のことが頭の中にあり「違う」場合なので、「対比」や「取り立て」の時に使う

・ 歌大好きですが、カラオケへあまり行きません。

・「今日暖かいですね。」(昨日は寒かったという時)(もし昨日も暖かかったのなら「今日暖かいですね」 )

・(女性に対して)「今日きれいですね」と言うと、昨日きれいではなかったことになるので、言わない方がいい表現として教えます。

 

☆7 「が」は頭の中に「そのことだけ」がある場合

他のものと比べたりするのではなく、そこにだけスポットライトが当たっている感じです。 例えば、

・目の前のこと  「あ、鳥飛んでいる!」 「あ、虹きれい~!」

・強調したい時  「これ、私作ったんですよ」 「これ、この間話していた本です」

・疑問詞のあと  「誰壊したんですか」 「どこいい?」 「何好き?」

・名詞を限定(修飾)する節の中  「私昨日聞いた話では~ 」

「私が昨日聞いた」が「話」を限定しているので、頭の中にはそのことだけ。

 

☆8 ☆1の例に戻ってみると

 「声いい」と言うと「声のこと」だけが頭の中にあるので褒めることができますが、「声いい」と言うと他のことも頭にあり「声いいけど顔は悪い」などという意味になってしまいます。褒めるつもりなら必ず「声いいですね~!」と言いましょう。もしも、顔良い人なら「声いいんですね~!」と言うべきですが~

 

ひとことで言うと

「は」は頭の中に2つ以上のものがあって、その2つが違う場合

「が」は頭の中に1つだけある場合、ということができます。