信号の色は「あか・き・みどり」なのになぜ「青信号」と言うのか、と外国人日本語学習者からよく聞かれます。
「あお」というのは昔は今より広い意味で使われていて、例えば「青葉、あおもの(緑の野菜)」のように、「みどり」も「あお」の中に含まれるのだと説明されます。
☆1 古代の色の名前としては
「あか 明 」 明るい色 ←→ 「くろ 暗 」 暗い色、
「しろ 顕 」 はっきりした色 ←→ 「あお 漠 」 ぼんやりした色
の4つの色の名前があったと言われます。
これらは色彩そのものの名というより、光を感じる時の感覚から生まれたもののようです。
「漠」に由来する「青」の場合は文字通り境界線も漠としており、「黒(暗)」と「白(顕)」の間に横たわる、かなり広い範囲の色合いを「青」の音で形容していたようです。
「青」も「緑」も「藍」も、時には黒や白まで「アヲ」という語で代表させていました。平安時代には「アヲウマ」の表記に「青馬」「白馬」どちらも使っていた例もあるそうです。 ( *1 )
☆2 現在でも、この4色のことばは昔からの慣用表現として、よく使われています
例えば、
「あか」 真っ赤なうそ、赤ちゃん、お赤飯、赤くなる、赤面する、赤恥
「くろ」 黒星、黒幕、黒子、暗黒街、黒潮、くろうと(玄人)、くろ(有罪)
「しろ」 しろ(無罪)、しろうと(素人)、白星(しろぼし)、白夜、白い目で見られる、しらじらしい(そうではないということがはっきりわかる、見え透いている)
「あお」 青葉、あおもの(緑の野菜)、白砂青松、青白い顔、青息吐息、青くなる、青臭い、青二才(未熟な若者、二才は二歳馬のことで若い馬の意味、鹿児島の言葉)、青い山脈、青春・・・
となると、思い浮かぶのは中国の春夏秋冬の表現です。
「青春・朱夏・白秋・玄冬」 「あお・あか・しろ・くろ」の4色です。「やまとことば」にもともとあった色の表現が中国語の影響で、この4色に固まったとも考えられます。
☆3 その他の、後からできた色の名は具体的な物の名前からできた名
例えば、
「桃色、だいだい(橙)色、灰色、ねずみ色、水色、空色、藤色、黄土色、茶色 (昔のお茶は今のウーロン茶のような色だった)、あかね(茜)色(根から赤い染料をとる茜で染めた色)、あい(藍)色(藍で染めた色・くすんだ青)、むらさき色(ムラサキの根に含まれる色素によって染めた色)」など「~色」をつけて表します。
後からできた色の名前なので「あかい、くろい、しろい、あおい」のような「~い」の形容詞はありません。
「みどり」も「~い」はつきません。
☆4 「みどり」というのは
平安時代(10世紀頃)から使われ始めた比較的新しい語で、元来は色の名ではなく「新芽」「若枝」を表すことばでした。
語源は「みづ(水)」とか「芽」に関係があるとする説が多く、新芽は「みずみずしい」ので
「赤ちゃん」は「みどりご」、
「みずみずしく、つややかな黒髪」を「みどりの黒髪」と言いました。
そのため、「みずみずしく、つややかな若葉」の色のことを「みどり」と言うようになり、青色と黄色の中間の色になったと考えられます。
それまで「緑色」を表していたのは「青」でした。「青葉」と言いますが「みどり葉」とは言いません。
「あおもの、あおりんご、青々と茂る、青松、青柳、あおのり」などは「みどり」の意味で使われている例で、「青臭い、青二才」の「あお」も「未熟な果実のみどり色」からきています。
というわけで、日本人は「青信号」と言ってもあまり違和感がなく、リズムの点からも「あか、き、あお」の方が短く言いやすい、語呂がいいということもあります。
* ちなみに、英語の ‟green” の語源は ‟grass”(草)です。
ひとことで言うと
「みどり」という言葉は比較的新しいことばで、古くは「みどり」のことも「青」と言っていたからです。
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*1 日本語相談 254回 回答者 大岡信 週刊朝日 1991年10月18日号